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「犬千代様っ!生徒の前で情けない姿はお止め下さいませ」

「ま…まつ!!」

犬千代サマって前田先生のこと?
『まつ』と呼ばれた美人さんは、イノシシから降りると、駆け寄るようにして前田先生の前へと来た。

「さあ、頑張って下さいませ。まつがおりまする」

しっかりと前田先生の右手を握りしめる『まつ』さん。
彼女に応えるように視線を絡ませる前田先生。
なんだ、この甘ったるい2人の世界は……

目まぐるしく変わっていく状況に脳内の整理が追いつかない。
必死で状況を理解しようとする私をしり目に、新たな介入者が現れた。

「いやいや、普通科にまつ姉ちゃんがいちゃダメだから」

「「け、慶次っ!?」」

イノシシの脇に立つ、男子にしては長すぎるポニーテールを揺らし、笑顔を振りまく彼。

「キャー、慶次センパイ!」

「生で見られるなんて、シ・ア・ワ・セ」

「すげぇよ、前田一家勢ぞろいじゃん」

「名物っちゃ名物だけど、生で見られるとかラッキー」

そして、その彼を認識すると、入学式ばりの悲鳴やら感嘆の声を上げるクラスメート。
チラッと市ちゃんを見ると、偶然目が合い、頷かれた。

……なるほど、あの人も学園屈指の人気者なのか。

そう理解し、ポニーテールの彼をもう一度見れば、肩に乗っけたサルを撫でて優しく微笑んでいた。

うむ、確かにイケメンだけど、なんで小猿なんか引き連れてるんだ?え、学校ですよね、ここ?

「みんな、迷惑かけてごめんね。ほら、まつ姉ちゃん。まだうちのHRが終わってないんだから戻るよ」

ハッと気が付くと、私がサルに気を取られている間に話が進んでいた模様。
困った、また状況が分からなくなった。

「慶次!学校では、まつ先生だと何回言えば分かるのです」

「そうだぞ、慶次。まつの言うことはちゃんと聞きなさい」

「その言葉、そっくりそのまま2人に返すよ。愛は大事だけど、学校では自粛しよーぜ。身内からすれば、恥ずかしいったらありゃしない」

「うっ、確かに」

「否定できませんわ」

「はいはい。分かったとこで帰るか、夢吉」

「キキッ」

「じゃあね、普通科のみんなぁ」

「「「キャアアア!」」」

そんな私を置き去りにするようにして会話は終わり、イノシシとポニーテールの彼、まつさんは教室から去っていった。

そのあと、何事もなかったようにHRが進み、あっという間に放課になった。

あれ?
そもそも私、怒られてたんじゃないっけ?

疑問を持ちながら、教室から流れ出ていく生徒に混じろうとする。が、それは肩に置かれた手によって妨げられた。

「苗字、まだ話は終わってないぞ」

ギギギ。まさに音声をつけるならそんな感じで振り返ると、とびっきりの笑顔で私を見下ろしている前田先生がいた。

「お前はバツとして、あの荷物を体育科の武田先生に届けなさい」

そう言ってある一点を指で差した先生。それを辿っていくと、どうやら荷物は外にあるみたいだ。

窓に張り付いて下を眺めると、下校途中の生徒に紛れて見える、それ。

「…………あれを1人で運べと?」

「なに、荷車を用意したんだ。運びやすいだろう」

確かに素手で持って運ぶよりは楽だろうけど、問題は荷車に乗ってる荷物だ。

大量のタオル、ドリンクケース、ホワイトボード、ペン、ダンベル、パワーリスト、などなど……

ダンベルとか重いモノが何故荷物に混ざってるんだ。

「普通科と家庭科で余った備品と、某の物でいらない筋トレグッズがあるなら欲しいって言われてな。
ちょうど手伝ってくれる生徒を探してたんだ。
女子に頼むのは申し訳ないんだがなぁ。
まあ、寝てた件に関しては、お前の成績のこともあるし、これぐらいで許してくれるって。
良かったよなぁ、あははは」

……………………………………………………ちっとも、よくねぇよ!



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