04.5




「やはり、食堂の団子は美味でござる」

「そうだねー。てか、旦那。今日は入学式だから許すけど、明日からはそんな量食べちゃダメだからね」

「うぬっ。承知した」

パクパクとタワーの如く積み重なった団子を食べていく、旦那。
毎度お決まりの光景とはいえ、俺様呆れちゃうよ。

ため息をついて、旦那から視線を逸らして食堂内を見渡す。
見知った顔が大半だけど、知らない顔もちらほら見える。おそらく外部から来た連中なんだろう。

何学科に何人入ったか調べとかないとなぁ。
ズボンから手帳を取り出し、予定を書き込む。うちの学科は昼間の授業があんまりないから、諜報活動をする俺としては助かるよ。
ま、諜報活動自体も授業の一環だから、マジメにやらないとねー。

………………あれ?
手帳から目を離し、再度食堂内を見渡す。
すると、俺様の視界に、信じられない光景が入ってきた。

「旦那、旦那!」

「にゅ!?なんら、さすきゅ」

「あそこ見てよ」

食堂のとある一ヶ所を指でさし、旦那に見るように促す。
クエスチョンマークを浮かべながらも、俺の指が示す方向をたどり、それに気が付くと、目を見開いた。

「っ!……ぐ……がっ」

「あー、もう。緊張感がないんだから」

あまりの衝撃で喉に団子を詰まらせた、旦那。いつも通り、ペットボトルのお茶を渡してあげれば、ものすごい勢いで半分以上を飲み干した。
いい加減、学習しないかなぁ。

「ぷはっ!すまぬ、佐助」

「いえいえ、それより」

「うむ。食堂のご老人方がおなごと楽しそうに話して居られるとは」

「信じらんないよねー」

しかも、飛びっきりの笑顔で。
普段、あのおばちゃん達は女の子にとてつもなく冷たい。
理由は、マナーや礼儀がなっていないから。
うちの寮の女子は美人さんが多いんだけど、何でか他人を下に見るような態度を取る人が多い。
それが原因で食堂のおばちゃんsに対してヒドい扱いをした女子と、おばちゃんsとの間には深い溝が出来ていた。
俺達男子は、当時傷付いたおばちゃんsを庇っていたから、それ以降、好待遇を受けている。


だから、俺様達にとって目に映ってる光景は大変信じがたいワケ。
でも、食堂内でこの異様な風景に気付いてるのは俺様達だけみたいね。
みんな、新しい友達との会話や食事に夢中みたいだから。



ピローン



「む。しゃめか?」

「そ。あとで色々使おうと思って」

「其れはよいが、あのおなごに迷惑をかけるようなマネはするでないぞ」

「わぁーかってますって」

怪訝そうな顔をする、旦那。俺様って、そんなに信用ない?









「あ、行っちゃった……」

旦那とあーだこーだ話している間に、彼女は食器を片付けて出入り口に行ってしまった。
もうちょっと見たかったな、あのレアな光景。

「それにしても、あのおなご……ただ者ではござらんな」

「あ、やっぱりそう思う?」

「うむ。おそらく、この学園でも珍しいた、たいぷのおなごだろう」

若干、言い方に違和感があったのをスルーして、彼女が消えていったドアを見つめる。

真田の旦那がそう言うぐらいなんだから、本当に彼女のようなタイプは珍しい。
顔は遠目にしか見てないけど、おそらく中の下くらいだろう。
見た目も規則通りの制服に、アクアブルーのカーディガンと平々凡々な格好だ。

そんな彼女がおばちゃんsに気に入られるような性格の持ち主で、ましてや外部生だという。
こりゃ、調べてみたら、意外と面白そうかも。

久しぶりの日常の変化に、心が躍る。ニコニコと笑っていると、しばらく黙っていた真田の旦那が思い出したように言った。

「そういえば、佐助!お市殿に、ご友人が出来たとの話は知っておるか」

「えっ!!初耳なんだけど」

予想外の情報に俺様は耳を疑った。
女子に対して笑顔だったおばちゃんsに続き、なんとも信じがたい情報。

「其れもそうだろう。俺も寮に来るときに浅井殿にお会いしなければ知らなかった」

「えっ、なぜに警備委員長が出てくるワケ!?」

「ふむ………浅井殿が言うには、帰りの短学活が終わってから間もなく、お市殿から電話が来たそうでな。
嬉しそうに話しているお市殿の声を久しぶりに聞いたと、泣きながら言い、校内の巡回に向かったぞ」

「……えー」

泣きながら「悪は削除する」とか、説得力なっ。

ま、それはどうでも良いとして、あのお市ちゃんに友達ねぇ。
さっきの子といい、今年は面白い子が結構入ってきたみたいだな。


これから俺様を待っているであろう、楽しそうな学園生活に期待をしながら、一度しまった手帳に大事な情報を書き記した。





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