サン・ヴァレンティーノ






ボンゴレ総本部の屋敷へ出掛けた帰り道。
車内から見える街の景色はいつもに増して人が溢れ、賑わいを見せている。
どこから湧いて来やがったのか、人と車で道がやたらと混んでいて車がなかなか進まない。
そんな状況に疲れが増して思わず深い溜息をつけば、「混んでますねー」と部下である運転手が呟く。
「…何でこんなに人が多い?」
「今日はフェスタ・デッリ・インナモラーティ、恋人たちの日ですよ。だからなのではないでしょうか」


サン・ヴァレンティーノ


「あぁ…そういうことか」
興味がないためすっかり忘れていたが(忘れていたというよりいちいち覚える気なんざなかったから、覚えているわけがない)、そういえば今日がその日だったなと気付けばこの混雑の理由にも納得がいった。
サン・ヴァレンティーノ、か。オレの知ったことじゃねーな。
そんなオレからすればどうでもいいことで足止めをくらわなくてはいけないのが腹立たしい。

「ザンザス様はどなたかにプレゼントを差し上げたりはなさらないのですか?」

黙ったまま外の様子を眺めていたら突然予想もしなかった質問を投げかけられ、思わず目を見開きア然としてしまった――質問の意味を理解するのに少し時間を要する程に。

「…オレが?…はっ!するかよ。面倒臭ェ」
そう言って頭に浮かんだのはスクアーロの顔だった。
あのカスは毎年毎年飽きもせずに何かしら買ってくる。
だいたいはワインか花束。他は香水やらアクセサリーやら服やらで、灰皿、アンティークのティーセット、なんてのもあった。
なんというか、マメな奴だ。
そんな事を思い出していると、「面倒臭い、ですか」と苦笑する運転手に、「ああ。興味も無ェな」と鼻で笑い返事を返した。
興味がない、というより、プレゼントをあげるだなんて考えたこともなかった、が正解かもしれない。

「あ、少し進みましたね」
停まったままだった車が動き出して景色が変わる。
少しだけ進んだ車はまた直ぐに停まり、窓から見えるのはサン・ヴァレンティーノでいつもより活気づく花屋。

「…ちょっと先行ってろ」
「はい?」
「そこの花屋まで行ってくる」
大して進みもしない車の中でじっとしているのにもいい加減飽きてきていた頃。
それならば、オレの帰りを待っているだろうスクアーロに何か買っていってやるのも悪くはない。
それにこの状況では車から少し降りたところで直ぐに追い付くだろう。

車から降りて花屋で買ったのは一輪の薔薇の花。
たかが薔薇一輪を綺麗に包もうとしている店主に無駄な飾りは必要ないと断った。
今更カス相手に飾り立てる必要などないし、そんなことをしなくとも普段オレから花など貰ったことがないスクアーロが喜ぶのは目に見えている。
男が花を貰って嬉しいものなのかは謎だったが、あいつは嬉々としてオレに花束をプレゼントするような奴だし、よくよく考えればオレもカスから花を貰った時に悪い気がしたことはない。
スクアーロは間違いなく喜ぶだろう。

「プレゼント、買われたのですか?」
「…ただの気まぐれだがな」


Con Amore…


イタリアの街が恋人たちで溢れ返る、サン・ヴァレンティーノ。
早く愛する人の元へ――

ザンザスはふっと笑い、スクアーロのことを思い浮かべながら静かに目を閉じた。



Feb.14,2010-黒江ゆきじ
バレンタイン用に描いたイラストにセットで付けたオマケ文だったものです
なので内容的にスクアーロの出番がなかったという…


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