1 俺、川田文哉はピカピカの社会人1年目だ。 子供のときからずばぬけて勉強ができるというわけでもないし、運動も人並み、ルックスも普通。 いわゆる平凡だった。 そんな俺が恋しちゃったのは会社の先輩。 しかも男だ。 先輩は俺より3つ歳が違うだけなのに仕事をスマートにこなすし後輩にもやり方を丁寧に教えてくれるし…… 何よりカッコよかった。 男にこういう感情をもつのは初めてだったけどそんなのを気にしないくらい惹かれていった。 そして数か月前、気持ちが抑えきれなくなり告白をしたら何と先輩も俺のことが好きだったと言う。 めでたいことに今は2人で同棲をしている。 会社に入ったばかりの俺とは違い、先輩は仕事がたくさんあり今日も帰ってくるのが遅かった。 「もうそろそろ帰ってくるかなー」 そんなことを言いながら待っていると玄関がガチャリと開き、先輩の声がする。 「ただいま」 俺は小走りで玄関まで行った。 「小泉先輩、おかえりなさい」 「家の中じゃ呼び捨てでいいって言ってるだろ」 いつもは無表情な顔を緩ませて少し笑顔でそう言われた。 キレ長の目は普段とはまた違う優しそうな目をしている。 俺はこのたまにしか見せない笑顔が好きだった。 「あ、すっかり忘れちゃって。……賢人おかえり」 まだ慣れない名前呼びに恥ずかしくなり俯く。 赤面しているのを気付かれないために賢人の鞄を受け取りパタパタとリビングに行った。 「ご飯できてるよ。今温めるから待ってて」 「ああ、サンキュ」 こんなことをしていると新婚みたいだな……なんて思っちゃったりする。 同棲してから1カ月。 数か月前までは憧れでもあったし好きだった先輩とこうして一緒にご飯を食べてることが何より幸せだった。 |