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「なぁ吉野ー、いい加減機嫌直せよー」
「…半沢の変態、ばかっ」

 桜色の可愛らしい頬っぺたをぷくっと膨らませて歩くこの子が俺の恋人。
どうしてこんなに怒ってるかと言うと…

「うぅー…何で俺が、女の格好なんかしなくちゃいけないんだよぉっ」

 …そう。
道行く野郎共が思わず振り返ってしまうこの美少女、実は立派な男の子なのだ。

「何でって、俺の誕生日すっぽかしたお詫びに、1日何でも言うこときくって吉野が言ったんだろ?」
「あっあれは、お前が無理矢理…」

 その通り。
人がいい吉野を迫真の涙演技で追い込んで、Noと言えないように丸め込んだ。

「無理矢理だろうが何だろうが、ドタキャンした上に約束も破るの?へぇー、ふぅん…吉野って嘘つきー」
「なっ!?嘘つきじゃないっ!」
「じゃ、俺のお願いきいてくれるよね?」
「…わっ分かったよ!」

 来た来た。
こんな挑発に乗せられるの、吉野か小学生くらいしかいないと思う。
でも吉野のこう言う所、最高に可愛い。

「それにしても、半沢がこんなブリブリの服が好きだったなんてなっ」
「可愛いだろ?吉野に似合うと思って」
「嬉しくない!」

 いや、真面目に。
リボンブラウスに女の子らしいピンクのカーディガン、フリッフリのティアードミニスカートと言う、“the 乙女服”。
本物の女の子でも、余程可愛くないと着こなせないような服を、嫌味なく完璧に着こなせてしまっている。
因みにゆるふわロングヘアはウィッグだ。

「まったく…バレたらどうすんだよ。さっきから変な目で見られてるじゃんかっ」
「いや、心配しなくても全っ然、1mmもバレてないから」
「はぁっ!?」
「や、何でもない…」

 吉野は本当に分かっていない。
自分に向けられる視線の意味を。
野郎共は明らかに女の子として、性的な対象として見ている。
本物の女の子でさえ男だと見抜けず、嫉妬や羨望の眼差しを向けていた。

「それに!!俺さっき電車の中で痴漢に遭ったんだぞ!?」
「…へぇー」
「何だよ他人事みたいに!お前のせいで気持ち悪い思いしてんのにっ」
「…そうだね、俺のせいだ。じゃあさ、気持ち悪い思いさせたお詫びに、今度は気持ちよくしてあげるよ」
「は…?ちょ、どこ行くんだよ!?」

 吉野の手を引き、ビルの間の小道を抜けると、奥まった所に小さな公園があった。
遊具のあるグラウンドを進み、草木に囲まれたベンチに到着。

「は…はあ…映画…観るんじゃ…?」

 履き慣れないヒールで走って疲れきっている吉野を背中から抱き締めた。

「は、半沢!?」
「吉野…シたい」
「…はあぁっ!?」

 空気を震わせる程大きな声で叫ぶもんだから、公園中に吉野の声が響き渡る。
 

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