ぼちぽち | ナノ
春うらら
突如として僕の部屋に現れた龍が、これまた唐突に発した言葉。
僕はゆっくりと頬をつねってみた。
結果、痛くて、やっぱり現実だったことにひどく驚いた。
そんな僕を見て、龍はからからと笑っていた。
「だって、まさか龍がお花見に誘ってくるとは思わなかったもの。」
のんびりと2人で公園のベンチに座る。
目の前の桜は、美しく咲き誇っていた。
綺麗だなあと、思わずぽうっと見とれる。
横からの押し殺した笑い声に顔を向けると、龍が相変わらずのかっこよさで笑っていた。
甘く優しい笑顔にときめく。
まるで学習能力なんてないくらいに、何度も何度もときめいて好きになる。
「もう、なにが言いたいの。」
言葉と裏腹に、僕も笑顔だ。
軽い言葉の掛け合いが楽しい。
それ以上に、大切な人と一緒にこんな綺麗な桜を見れるなんて、嬉しくてたまらない。
幸せで幸せで、なんだか泣きたいくらいだよ。
「桜餅食べるか。」
ガサゴソと袋から取り出された甘味。
それを凌ぐ、龍の目元のとろける甘さ。
暖かい風が、心地よい空間がくすぐったくて、僕はふわりと笑った。
風に吹かれた満開の桜の木は、ひらひらと優しく、僕らに綺麗なおすそ分けをくれた。
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