ぼちぽち | ナノ
2
「何してんだ、由希。」
呆れたような声に顔を向ければ、龍がこっちを訝しげに見ていた。
・・・まあ、確かに今の僕は怪しいかも。
「えっと、空が綺麗、だから・・・。」
へらっと笑って言えば、龍はひとつ溜息を吐いた。
そんな仕草まで、僕とは違って大人びて見える。
「風邪引くから、さっさと戻れ。」
溜息なんてこぼすわりに、龍の目はいつも通りとても優しい。
不器用な龍は、こうやっていつも僕を心配してくれる。
「うん、あとちょっと。」
本当は戻る気なんてまだ無いんだけれど、ありのままに答えるのはやめておいた。
さすがに、わがまますぎるもんね。
「・・・由希。」
ぎし、と龍が足を踏み出した音が響いた。
再び空に向かっていた視線を戻せば、先程よりずっと近くにいた龍の腕が伸びる。
僕たちの間には柵があるけれど、そんなのも気にならない。
「耳、冷たい。足も裸足じゃねぇか」
そっと包まれた耳に、ふっと身体の力が抜ける。
きっと龍には、僕の考えなんてお見通しなのかなぁ。
部屋にね、まだ戻る気分じゃない。
苦笑いで告げれば、何故か龍は微笑んでくれた。
「おまえの部屋にはな、」
不敵に笑って、手を伸ばしてくれる龍に、じわりと心に何かが広がった。
そのまま、いつものようにベランダを越えて、龍のほうへ行く。
僕たちは、大切な、かけがえのない個人だ。
同じ人はいないし、それぞれにそれぞれの居場所がある。
だけど、ひとり、ひとり。
ほら、寄り添えば、ふたりになった。
寂しい夜には、君の隣で。
君の居場所にもぐりこんたら、そこは優しい君の温度。
大好き。
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