ひとり、ひとり
今宵の月はとってもきれいだ。
ベランダから空を見上げていた僕は、ほぅと息を吐いた。
春が近づいているとはいえ、外はまだ冷たい。
裸足の足と、首筋やら耳やらが、寒さに痛みを感じている。
それでも僕は、ただただ夜空を見上げて、美しさを探す。
冬の綺麗な星空を観賞だなんて、ロマンチストみたいだけど違うんだ。
荒んだ心を癒しているわけでも、美を探して満足しているわけでもない。
ただ、見たかっただけ。
急にすごく寂しくなって、それで夜空が見たくなったんだ。
家族もいるし、そんな大きな悩みだってないのに、急に虚無感と切なさに襲われて。
それで、ああ夜なら僕を受け入れてくれるだろうな、って。
ただ、そう思っただけ。
想像以上に綺麗な自然に、中に戻る気をなくしてしまった。
部屋は風もないし、明るく温かいけど。
なんだか、外のほうが落ち着くなぁ。
ほぅ、とまた吐いた息は少し震えていた。
さすがに、寒い。
頬杖を付いて、斜めに空を見上げる。
柔らかく明るい月は、本当に綺麗だ。
もちろん、星だってすごく綺麗。
目を細めたところで、ガラガラっと音がした。
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