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僕の知っている龍は、僕に優しい。
その優しさは全員には向けられてはいないのかもしれない。
いや、向けられてないんだろう。
そのことを勝手に確信して、なんだか特別である自分を誇らしく思ってしまった。
黒い感情に、つきりと胸が痛む。
こんな僕を、きっと龍も知らないんだろうな。
その考えに、またつきりと痛みが走った。
盗み見た横顔はまっすぐに、前を向いていた。
龍も同じように僕を見て、視線が交わった。
僕達は何も言わずに、同時に視線をそらす。
余計な詮索はしない。
ただ傍にいてくれる。
これも、龍の優しさなんだろうな。
じゃあ、僕は。
どうすれば優しい龍に、同じだけの優しさを返せるんだろう。
教室までの道のりで、ずっと考えてみたけど、よく分からなかった。
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