キリリク | ナノ
理央
だれ、
こんにちは、迷子の者です。新入生で千島京といいます。
どこ、
寮にかえりたいんです。
、
ありがとうございます。
その日は、いい天気、だった。
大好きな俺だけの場所で、昼寝をしてた。
すいません、って声が聞こえたから起きたら、人がいた。
それも2人、どっちも生徒会役員じゃなかった。
いやだな、ってちょっと思ったけど、うるさい人たちじゃないみたいだから声をかけた。
片方は怯えて、片方はにこりと笑ってくれた。
その笑顔が優しくって、声をかけてよかったな、って思った。
俺の言葉に丁寧にこたえてくれて、すごく嬉しくなった。
俺は、上手に人と会話できないから。
緊張はしないけど、慣れてなくって、警戒して、途切れ途切れに話してしまう。
相手は困った顔をしたり、怒ったり、諦めたり、勝手に納得したりする。
だけど、京は的確に俺の意を汲んで答えてくれる。優しく待っていてくれた。
人と会話することが、これほど苦にならず、むしろ楽しいなんて。
感謝の言葉に自然と微笑むと、京は顔を歪めた。
なんだか泣きそうだった。
苦しくて切なくて、その顔を見たら、胸がつきりと痛んだ。
「・・・神崎理央」
泣かないで、の代わりに自分の名前を口にした。
もう少しで分かれてしまうけど、忘れられたくなくって。
泣かないで、って言いたかったのに、弱い俺の心は自分を覚えてもらいたくて黙ってた。
虚をつかれた顔をしたけど、京はまたにこりと笑った。
それで、ああ良かった、って思えた。
心の中は悲しくても、笑えるんだったら、まだ大丈夫。
俺も嬉しくなって、笑った。
一緒にいると、楽しい人。
話を聞いてくれる人。
なんだかすごく、切ない人。
また会いたいな、って思ったら、なんだか泣きそうだった。
お願いだから、またお話しようね。
心の中で、また来てくれると言った京を思い浮かべた。
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