キリリク | ナノ



見た瞬間に感じたのは、静かで確かな衝動。

めったに動くことなど無い己の感情は、どこか心地よく胸を締めつけた。


最近、かなりの数の苦情が風紀に寄せられる。
親衛隊が苛立ち、治安も悪く、多くの生徒が不安と不満を抱えている。

その元凶、藤浦陽を連れて来い。

そう命じたものの、いつまでたっても帰ってこない双子に、俺が食堂へ出向くことにした。
相変わらず騒がしいところであったが、俺が入るとすぐに徐々に静まり返ってゆく。

それにも関わらず、うるさく騒いで悪目立ちしている編入生。
話しかければ、自分勝手な正義感を振り回し、俺の邪魔をする。
こんな奴を気に入っているなど、生徒会の連中とはことごとく合わないな。

冷たく切り捨てると、泣きそうに顔を歪めた藤浦は切羽詰った声をあげた。

「・・・っ!き、京!」

その助けを求める方向にいたのは、黒髪の綺麗な生徒。
だが、その雰囲気は明らかに異質だった。

「なあに?」

この殺伐とした状況で、首をかしげてにこりと笑う。
そいつのその仕草で、周りの空気が緩んだ。

何かがかみ合わず、怪訝に思った。
別に、その仕草や態度は流れるように自然だが、それでも違和を感じたのだ。

編入生を宥めるように、やんわりと説明するそいつを観察していると、くるりと編入生がこちらを向いた。
発せられた言葉の数々は、想像もしなかったもの。
そして最後に、藤浦は少しはにかみながら、満面の笑みで告げた。

「友達になろうぜ!」

さあっと、心が冷えてゆくのを感じた。
心のままに拒絶すれば、彼はよりいっそう強く語りかけてくる。

「俺を、信じてくれよ」

その陳腐な言葉と、まっすぐに見つめてくる瞳は、疎ましい。
俺はそんなこと、望んでもいない。
これはただの、こいつの自己満足の偽善だろうが。

目を眇めた先、さっきの黒髪の生徒が見えた。
他の生徒が瞠目している中、その生徒の瞳は驚くほどに無感情だった。

暗く深く、諦観と失望と絶望と、さまざまに混ざりきった、温度の無い瞳だった。

まるで隠すかのようにすぐに伏せられたそれを、もっと見たいと思った。
少しだけ垣間見えたそいつの心を、もっと覗いてみたい。

本当のそいつを、知りたかった。
きっとそれは、今までのどんな奴よりも俺に近く、俺を満足させるはずだ。

欲しい、あの暗い瞳が、深い闇が、掴みどころ無い仮面が。
ただ、心が欲した。


それは、静かで確かな衝動、欲望、渇望。

めったに動くことなど無い己の感情は、どこか心地よく胸を締めつけた。


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