キリリク | ナノ
暁良


そいつとの出会いは、ざわめく食堂だった。
拓巳が気に入ったという、季節はずれの編入生を見に行った時だ。

排他的で腹黒、完璧に微笑み、固く仮面を被った拓巳。
その演技に気づき、媚びることも無く、太陽のように笑ってくれたのだという。

純粋に気になって実際に話してみたかった、さらに言えば非日常を加速させようと思った。
俺らが行き新入りに構えば、混乱が起きる。
退屈な日常で、俺は非日常の刺激を望んだ。


食堂に着くとすぐに歩みを速めた拓巳。
その姿に編入生への期待を高めつつ、ゆったりと近づいていった。

ぼさぼさ黒髪、分厚い眼鏡、小柄な体躯。
その姿を見て脳内を走った言葉は、がり勉オタク、不潔、オムライスは似合わない。
拓巳の趣味が分からず、思わず眉をひそめた。

同じ机にいたのは平凡と、そしてそいつ、京だった。


綺麗だ、と思わず息をのんだ。

指どおりの良さそうな漆黒の髪、黒曜石のような静かで美しい瞳、白い肌と箸を器用に操る指先、落ち着いた雰囲気。

か弱いというわけでも、女らしくもない。
繊細で精巧な、一流の人形師が命を削って作ったような、中性的で絶対的な美しさ。


その容姿に魅せられた。
しかし次には、ほかの事に興味をひかれた。

ざわめく食堂、事の中心にいる友人、ひっきりなしにあがる耳障りな誹謗中傷の悲鳴。
普通ならば、隣の平凡のように居心地悪そうにしたり、拓巳のように眉をひそめる。

しかしそいつは、落ち着いているどころか、やんわりと笑みを浮かべていた。

何を、考えているのか。

そいつには、世界は、俺は、どう見えるのか。


周りに溶け込んでいるようで、まるでもって異質なそいつ。


日常にまぎれこんでいた非日常に、心が高鳴った。


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