キリリク | ナノ
3


「・・・今日の雨は綺麗だからな」

ぽつりと、会長はそれだけを呟いた。

なんだ、それ。
俺と同じなんじゃないか。

綺麗な雨に、濡らされてみたかった。
久しぶりに、日常とは違うことをしたかった。

なんだ、それ。


おまえは、と尋ねられたが、一緒だとはなんだか言いたくなくて、ふいと視線を斜め下に落とす。
別に変な意地を張ってるわけじゃないつもりだが、理由もなく、言葉が発せられなかった。

返事をせずに怒らせたかと思うような、だが長くはない沈黙の後、視界に映る会長の腕がすっと伸びる。

「・・・いいな、おまえ」


そのまま、どこか艶のある仕草で俺の鎖骨を撫でる。

思わず半歩引いて、目を眇めて見やれば、くつりと彼は笑った。

顔に張り付く髪をかきあげつつ、非難の言葉を口にした。
だがそれは、同時に一気に強まった雨に邪魔されてしまった。

ざあざあと、突然の土砂降りに、眉をしかめる。
雨音がうるさいし、大粒の雨は痛みを与える。


「・・・京、」

ぐんっと手を引かれるままに、前へ進む。
驚いて顔をあげるも、そこにあったのは会長の背中だった。

俺よりも大きな、今は雨に濡れて骨格まで分かる背中。


「どこに」

どこに行くんですか、と全てを言い切る前に、会長はすっと俺を振り返る。
驚くほどに落ち着いた瞳と、わずかに緩んでいる目元。


首筋に張り付いた髪だとか、伏せ目がちの目だとが、冷たくなっている手とか、雫がすたう顎のラインとか、とにかく彼の構成する全てが。

雨に濡らされて、どうしようもなく綺麗で、至高で、凛と澄んでいて。


思わず何も言えず、まるで魅せられたかのように、そのまま彼に付いていってしまった。




今でもまだ薄れない、ある雨の日の記憶。


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