千変万化 | ナノ
温度差
いつかの行為中のことだ。
『太陽は、あついな』
胸元に唇をよせた俺の耳が拾った言葉。
独り言のような、小さくて、抑揚のない声だった。
俺は、あつい。
こいつは、つめたい。
触れる度に、それは感じていた。
だが、口には出したくなかった。
その時の俺は、『黙れ』と言って、いつもよりも激しく月を抱いた。
抱けば、月はいつもよりも表情を見せ、俺の熱が移るように体も熱くなる。
俺だけを、感じている。
だが、それでも。
どうしても、俺のほうが熱かった。
仕方ない、と割り切りはしない。
それを認めることは、俺と月があまりにも違うことを、遠くかけ離れていることをも認めることになる。
例えそれが、変えようのない事実だとしても、拒んだ。
月は、俺が必要で、俺に依存している。
俺は、月を愛してやっている。
月は俺の所有物だ。
だから、俺の傍にいて、俺だけを感じればいい。
たかが体温に、邪魔などされたくはない。
月を感じる度に、野望に欲望に決意に何かに、体はますます熱を持った。
俺はおまえを愛する故に、燃えている。
おまえも、そうでなくてはならない。
俺のものなのだから。
だからまた、俺は月を抱く。
どれほど繰り返せば、この熱を共有出来るのか。
俺を狂わせる、強すぎる、この想いは。
[*前] | [次#]
back