千変万化 | ナノ
与えましょう



そんな苦しげな顔をしないで。
泣き出しそうな瞳を伏せて隠さないで。


哀しげに震える瞼に、そっと優しいキスをした。
今も俺にすがりついている白い腕。

なんて愛しいんだろう。
胸が詰まる。
胸中に渦巻く強い欲望、相反する2つの渇望。


見たくない。
儚く消えてしまいそうな、絶望と悲しみに苦しむ顔なんて。

見たい。
君の全てを、俺だけに。
俺だけに全ての姿を見せれば良い。


言ってしまえば、後者が強い。
月が大好きで大切であるが故に、閉じ込めてしまいたい。
全てを奪い尽くしてしまいたい。


「愛してるよ。」
俺はもちろん、月だけを愛してるよ。

耳元でしっかりと囁くと、細い肩が揺れた。
何も言わずにただ、顔をさらにうずめてきた。


愛しい。
ようやく、俺の元に帰ってきたんだ。


月を失った太陽をわらった。
愚かな奴だ、月以外に触れた手だなんて汚らわしいというのに。
気づかなかったのか、月以外の無意味さに。


居場所と何かを求めてくる月を抱きしめる。

与えようとも。
俺の全てを与えよう。
愛を、欲望を、渇きを、居場所を。

可愛らしい俺だけの月。
守り愛するために、閉じ込めてやろう。
綺麗な華奢な鳥籠に。
見えない重い鉄格子の中に。



優しく優しく、壊さないようにそっと、震える唇に触れた。





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