ただ、何かを
2人の出て行った扉を見つめる。
一人きりの生徒会室には、まだ他人の気配が残っている。
鮮やかに脳裏に焼き付いた、はにかむような綺麗すぎる笑顔。
出る際に再度「手を出すな」と警戒してきた透にも理解できる。
綺麗な容姿だが、強靭な意志を持っている。
屈しない態度、艶やかな笑み、強く光る瞳。
サバサバしている性格、悪戯な笑み、細められる瞳。
心が疼く。
自分の椅子に腰掛ければ、そこにはまだあいつの温度が生きていた。
「…如月更夜、か」
ただ、なんとなく。
言うならば、まるで生まれ持つ本能のように。
自ら手を伸ばしてみようか、と思った。
そうすれば、何かがある気がした。
机の上に、空のカップがぽつんと置かれている。
それを見て、俺の顔は勝手に笑みをかたどった。
きっと、何かがある。
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