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「不思議な編入生は―」
「俺たちに何が言いたかったの―?」
再び、双子がこてんと首を傾げる。
未だ呆けていた陽は、それにようやく目が覚めたみたいだ。
やれやれ、王道くんというのは、本当にマイペースというか手のかかる子だねぇ。
「そうだった!てめぇら、なんで京を追い掛け回してんだよ!」
・・・本当にどうしようかねぇ、この子。
可愛らしいけれど、さすがにこの質問はどうかと思うよ。
真っ直ぐに物怖じしないその態度は素晴らしいけれど。
「鬼ごっこだしぃ?」
「俺たち鬼だしぃ?」
さすがに吾妻双子もフォローできずに、顔を見合わせて苦く笑った。
「っそれはそうだけど!だけど、それでもこんなに追いかける理由にはならねぇよ!」
怯まない陽は、素晴らしい神経とセンスを持っている。
うん、それでこそ王道編入生。
思わず口元が緩やかな弧を描きそうになって、慌てて心を落ち着ける。
愚直だとしてもなんだとしても、俺に萌をくれるのなら構わない。
空気なんて読めなくても、俺の邪魔をしないのなら嫌いはしない。
ただ、そうじゃないのなら。
邪魔者は、全力で消す。
ただそれだけの話、そして陽は嬉しいことにその点では良い子なわけだ。
さて、あとは双子ちゃんが萌える方向へと向かってくれるかだねぇ。
俺としては、この場で仲良くなって陽に懐いて欲しいのだけれど。
「楽しいからでしょ。」
「興味があるからでしょ。」
へらへらと同じように笑う双子に、陽は眉根を寄せる。
その表情は、怒りじゃなくて、むしろ悲しみだった。
「・・・っ、おまえらさ」
低く、抑えるような陽の声。
明らかな変質を感じ見つめれば、まっすぐな瞳が双子を見据え、震える唇が音をつむいだ。
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