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会長の奇妙な長所を発見しつつ、俺はゆるりと微笑む。
だってねぇ、会長が俺を捕まえる宣言だなんて、面白くって仕方ない。
「うん、ちょっと頑張ろうかな」
口の中で小さく呟くと、マイクを持って前に立った会計の南山先輩へと視線を移す。
開始10分後、鬼も活動を開始する。
勝負はきっと、その間にどこまで行けるか、そしてこの学園をどのように利用するかだ。
頭脳も体力も使う、厄介なゲーム。
だけど、どうせするなら楽しんだほうが良いかもしれないね。
「はぁーい、お待たせしました!」
先輩の可愛らしい声が響き、それへの歓声も沸き起こる。
その声援ににこやかに応えつつ、先輩は片手を宙に上げた。
「よぉーい、」
パァンッ、と快活な破裂音。
一斉に散った周りに合わせ、俺も足を上げる。
愚直にも集団で真っ直ぐに走るその先頭は、見なれた黒いボサボサ頭みたいだ。
隣の大河に目で合図をやって手を振ると、俺はそのまま素早く頭に描いた地図と計画通りにわき道へと走った。
広い広い学園、庭園やら中庭やら林やら。
やはり金持ち学園というのは、庶民には全く理解できないよね。
それでもここは、俺の萌えの楽園であると共に、3年も過ごすテリトリーだ。
どれだけ広かろうと、どれだけ入り組んでいようと、俺の中の地図は寸分の狂いもない。
ちゃんと今までの1ヶ月でチェックもしておいたしねぇ。
ほら、言っただろう。
この学園の広大さは身を持って知っていると。
静かな木立を駆けつつ、俺は第一の隠れ場所へ向かった。
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