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あぁ、そういえば。
ふと思いついた俺は、ずっと妙な沈黙を保っている山並くんに話しかけた。
「山並くんは何の競技に出るの?」
実は同じクラスの彼だけど、大抵はサボっているからねぇ。
何の競技だか、全く知らない。
こてんと首を傾げると、斜め下を見ながらも山並くんは口を開いた。
「…鬼ごっこ。」
「、え」
まさかの回答に、俺は驚きを隠せなかった。
鬼ごっこだなんて、予想だにしなかったもの。
うーん、たぶん陽が鬼ごっこになったからかなぁ。
恋の力って凄いねぇ。
「まぁ、お互い頑張ろうね。」
適当に声をかけて話を終えようとすると、不意に彼は目を上げた。
まっすぐに見てくる瞳には、今までの警戒や憤りは感じられない。
見つめ返しながら、さて何の用だろうかとのんびり考える。
「…あのさ、千島。」
しばし迷ったのち、彼はいつもの不器用な突っかかるような口調で切り出した。
「山並くんじゃなくて、大河って呼べよ。」
またもや予想外な山並くんの言葉に、ゆっくりとまばたきをした。
どういう心境の変化だろうか。
今までむしろ敵視していた俺に、名前呼びを許可するなんて。
いまいち彼の意図が掴めない。
これは俺にとって、プラスなのかマイナスなのか。
「…そうだねぇ」。
よく分からないまま、それでも俺は頷いた。
それは、ただ何となく。
真剣にこちらを見る瞳に、悪い気はしなかったというのもある。
山並くん改め大河は、親衛隊持ちの美形不良だけれど。
クラスメートを呼び捨てするくらい、きっと大丈夫だろう。
ただ、「俺のことも名前呼びな!」なんて王道編入生みたいなことは言わない。
それにも深い理由はないんだけれどね、何となく。
「…ちょ、京!行くぞー」
急に引かれた腕をたどると、先ほどよりも少し機嫌の悪い陽がいた。
なんだかねぇ、まあ相変わらず自己中心的なこと。
「大河」
行くよ、と声をかけるついでに早速呼ぶ。
なんだか少し顔が赤いが、それでも大河はしっかり頷いた。
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