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ステージの上の会長と目が合った気がしたけれど、きっと思い違いだろう。
こんなに広い体育館に1000人近くの人間、間にはけっこうな距離もあるんだから。
結局、多忙の会長とはあの日以来会っていない。
陽に関する進展は無くてつまらなかったが、きっと今回のクラスマッチではあるだろうから良しとしよう。
俺に関しては、これでいい。
あくまで俺はただの傍観者、関係なんて持つ気はさらさらない。
「なぁ、京!楽しみだなっ」
式が終わると、早速陽が話しかけてきた。
柔らかく相槌を打って、未だ騒がしい周りを見渡す。
やたらとこちらを見ている人が多くて、俺は彼らに軽く微笑んで見せた。
他人と視線が合った時の、俺の誤魔化す方法だ。
すると、何人かはとても友好的に話しかけてきた。
頑張ってください、いつも見てます、ありがとうございます、ごちそうさまでした、・・・。
「なんだかねぇ。」
よく分からない相手方の反応に小さく呟く。
感謝される云われもなければ、理解できない内容の返事も多い。
それに、俺は同学年か下級生だろうに敬語だなんて、案外この学園の人たちは礼儀正しいのかな。
まぁ、悪いことは起きていないしいいか。
「さぁてと、」
気持ちを入れ替えた俺は、ぼうっとしていた真澄の腕を掴む。
こちらを見た真澄は、かすかに頬を引きつらせた。
流石は真澄、俺が言いたいことが分かってるのかな。
「本当に不本意だよねぇ・・・。」
にっこりと笑えば、真澄はかすかに後ずさった。
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