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ここで、「怖がるわけねぇだろ!」なぁんて言ったらお終いだよね。
まるっきり王道編入生の反応じゃないか。
それで懐かれちゃうコースじゃないか。
お断り、話にならないよ。
俺が当事者になるだなんて、そんな面倒くさいこと。
しばし考えたのち、俺が口にしたのは真実に最も近い言葉。
「君程度で俺が怖がるとでも、」
“馬鹿にするなよ、粋がってる不良が。”
言外にそう告げるような、不敵で相手の神経を逆なでする言葉を選んだつもりだ。
冷たい瞳でそう突き放すように言えば、やはり山並くんの眉間のしわは深くなった。
「ってめぇ・・・。」
最初の時よりも険悪に思える視線、苛立ちからか握り締められる拳と引きつく頬。
この狼さんは、短気だねぇ。
集団行動を忘れたからか、少しわがままで幼稚じゃあないかな。
しかしまぁ、攻めとしては大切な人物だからこれ以上は言うまい。
ほら、あんまり怒りすぎると寿命が縮むとか言うじゃない。
つい、と俺が視線を床に落とせば、山並くんはそれ以上は抑えてくれたようだった。
その姿を尻目に、隣に座る真澄の顔を伺う。
やっぱり中身も平凡な真澄は、いっそ面白いくらいに山並くんに怯えているからねぇ。
大丈夫、と声を出さずに尋ねると、弱弱しいながらも縦に頷いた。
「おまたせ!」
唐突に部屋に響いた明るい、沈んだ空気を払拭する声。
真澄は明らかにほっと安堵し、山並くんはその姿を認めて目元を和ませた。
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