嗚呼、素晴らしき | ナノ
∴不敵な笑顔に


実のところ、自分でも驚いている。

俺は逃げ足はやたら速いんだが、手まで速いとはねぇ。

いや、驚くべきことはここじゃないか。
天下の会長をけっこうな強さで平手打ちしたことだよ。

あぁ、どうしようか。

浅はかであったけど、反射だもの。
脳で考える前に、脊髄が判断しちゃったんだもの。

とにかく、つまり、過去を振り返っても仕方ない。
別に俺は、やり方は賢くなかったが間違ってはいないしね。


「すみません。」

あっさりと手を出したことを謝ると、周りからも会長からも更に驚いた視線を向けられた。

俺はそこまで馬鹿じゃないってのに。
すぐに非礼を詫びるくらいには潔いってのに。

心外だねぇ。


ですが、と言葉を続け、にこりと小さく笑う。

「そちらにも十分に非はありますよね。許可もなく他人の体に触るだなんて、無礼にもほどがあります。仲の良い友人ならまだしも、我々は知り合ったばかりで関係もまだ浅いわけですから。」


そう、むしろ。


柔和そうに続けた言葉をいったん切ると、俺は会長の目をとらえてにっこりと笑った。
めったに出さない、ちょっとレアな満面の笑み。


「そういう人は大っきらいです」
感情を込めて、すっぱりと言い切った。
なんだか、清々しい。

久々にこんな喋ったなあ、心の中以外で。




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