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一瞬呆けてしまって、目を逸らすタイミングを失ってしまった。
逸らすに逸らせない。
ある程度目が合い続けると、先に逸らしたほうが負けに思えるんだよねぇ。
そんなわけで、俺はじっと会長を見つめ返し続けた。
その漆黒の瞳が、ふっと和らぐ。
会長は、緩んだ口元で俺のためだけに言葉を発した。
「手を出すな、だとよ。」
「・・・えぇ、私自身もそうお願いしたいですね。」
俺に関しては、と心の中でしっかりと付け足しておく。
会長×編入生の王道カップリングの芽を潰したいわけじゃないんだからね。
「ふぅん、どうだかな。」
にやりと笑んだ会長は、ゆったりと俺に手を伸ばした。
その時の俺は、不覚にもきらめく漆黒の双眸に魅入られてしまっていたんだ。
認めるとも、迂闊で不注意であったと。
気づいたときには、ごく自然な動きをした会長の手は俺の後頭部に回っていた。
軽く引き寄せられて、まるで王道編入生が食堂でする公開キスシーンの王道場面を同じじゃないか。
いつぞや、本当に見た、陽たちの再来じゃないか。
反射的に、俺は動いてしまった。
あたりに響いた乾いた音。
しまった、と思った時には時すでに遅し。
周りの全員が俺を凝視している。
せめてもの救いは、ここが2階席で一般生徒はいないことだろう。
だって俺は、しっかりと会長の顔を平手打ちしてしまった。
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