∴2
「聞いてるよ。・・・ほどほどに。」
人はそれを、聞き流しているとも言うけれど。
耳に音を受け入れているだけ良いと思うのは俺だけかな。
「聞けっての。お仕置きっ」
はぁ、と溜息をついて、陽は手を伸ばしてくる。
その指は、しっかりとデコピンの準備をしていた。
デコピンがお仕置き、だなんて陽もまったく可愛いよね。
「遠慮するよ。ぜひ他の方にどうぞ。」
痛いことは嫌いだから、俺がその餌食になるつもりはさらさら無い。
なにより、そういう可愛い仕草は攻め要員のために残しておいてほしいな。
「・・・ちっ。で、なんで俺まで鬼ごっこなわけ?」
あらら、俺の空耳かしら。
潔いほどにはっきりとした舌打ちが聞こえたような。
・・・まぁ、陽だから許してあげるけれどね。
「面白そうでしょう。」
陽は、血の気が多い。
愚直なまでに真っ直ぐで分かりやすくて、明朗な性格。
喧嘩はもちろん、面白いことは大好きな性分のはず。
俺も面白いことは好きだ。
それに。
「これは運命なんだよ。」
どうして何かが起こりそうな場面に、王道編入生の陽が行かないでいられようか。
どうして俺の腐センサーが働くところに、期待大の陽が行かないでいられようか。
俺の萌えもためにも、仕方ないことなんだ、これは。
「まぁ、京も一緒だし良いけどさぁ―・・・」
肩をすくめて、陽は未だ釈然としない面持ちのまま頷いた。
[prev] | [next]
back