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「意外と強気な態度、あいつとの接点、拓巳のお気に入り・・・おもしろいな。」
不敵に笑うその姿のなんと美しいことか。
まさしく王者であり、全てのものを魅了する、まるで媚薬か麻薬のような危険な存在。
いいね。
美しいものは、嫌いじゃない。
「はぁ?別に―」
「東條暁良。」
勢いをそがれ呆れたような声を出した陽の言葉を遮る会長。
なるほど、「先に名乗るのが礼儀だろ!」という王道のやり取りはないわけか。
財閥のご嫡男は礼儀作法も完璧なのかねぇ。
「・・・藤浦陽」
不服そうにポツリと床に告げた陽。
拗ねたような態度はまことに可愛らしい。
そのせいで、きっと気付けなかったのだろう。
いや、原因の一端は滑るようになめらかな会長の動きにもあるかな。
つまり、王道だよ。
陽が顔を上げた時には、既に目の前に会長が居て、顎をとられ、いともあっさりと唇が合わさった。
その瞬間の食堂と俺の心の中の絶叫は、筆舌しがたい壮絶なものだった。
さすがに反応の早い陽が拳を繰り出したせいで、ディープキスじゃないけどね。
全く、もう少し堪能させてもらいたかった。
食堂中の、どす黒い感情が射殺すかのように陽に集中する。
憎悪や嫉妬、嘆きが押し寄せる。
拳をあっさりと受け止めた会長は、まるでそんな周囲など目に入らぬように颯爽と去って行った。
目を見開いていた後ろの生徒会の2人は、戸惑いながらも後に続く。
憤怒の表情を浮かべた副会長も、会長を追って去っていった。
もちろん抜かりなく、陽に愛想よく別れの挨拶を言ってからね。
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