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思わず、鼻と口を手で押さえた。
理由はもちろん、目の前で繰り広げられる光景。
奇跡的すぎる、王道な展開。
これを前に、興奮しない不届き者には腐を語る資格は無かろう。
「え?何って、カードだけど。」
重ねられた輝くカード達から自分の物を抜き取り、平然と手渡してくる。
問題だよ、大問題だ。
周囲もざわざわと騒がしさを増している。
「その金色と銀色のカードはどうしたの?」
内心でニヤニヤと期待しつつ、びっくりしたように尋ねる。
おまけに、陽の手にあるカードを指す指を軽く震えさせてみた。
「案内してくれた副会長のと理事長の。…どうかした?」
「副会長とは友達?」
うん、と当たり前のように頷いた陽。
クラスから誹謗中傷の嵐。
対して俺は、心の中で喝采をあげていた。
ここまで王道だと、陽を崇めたくなるよ。
一般生徒とはほとんど関わらない副会長と理事長のカードを、あっさりと入手!
きっと気に入られたんだろう。
…素晴らしい!
王道とは言え、本当にこんなことが起こるなんて!
「良かったね、陽。」
これからも期待しているよ。
頑張って、総受けライフを楽しんでくれ。
周りをスルーした俺は、極上の微笑みをプレゼントする。
一瞬静まり、また更に陽への敵意を増したクラス。
周りにきょとんとしつつ、俺の言葉にはにかむ陽。
う―ん…
王道通り、無自覚で軽く天然な強気かねぇ。
我が強いわけでも、空気が読めないわけでもなく、また騒々しくないのは大変よろしい。
元総長だったり、過去有りだとなお良いなあ。
授業中も、俺は上の空でわくわくと妄想していた。
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