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その瞬間、きゅっと胸が痛くなった。
息を吸う度に痛み、呼吸がしづらい。
これは、なんだろう。
「…懐かしい」
ぽつりと呟いていた。
俺は、その綺麗な笑顔が何故だか無性に懐かしかったのだ。
切なく、痛い。
接点も何もない、他人。
霞む記憶にだって、この人はいないだろうに。
ただ、懐かしい。
「…神崎理央(カンザキ リオ)」
「え、あぁ。」
よろしくお願いしますね、と言うと、その人はまた音を立てずに笑った。
その後は、神崎さんは真澄とも自己紹介をした。
それ以外は何も言わなかったがね。
やはり、とても居心地が良かった。
わんこ攻めだとか、溺愛攻めだとか、天然攻めだとか。
攻め要員として、腐男子ならば小躍りしているんだがねぇ。
ほら、真澄に出会いがあったわけだしね。
だけどなんだか、そんな気分にもなれない。
まぁ、いいか。
また明日、悶えようとしようかねぇ。
これから3年間、俺の素晴らしき時は始まったばかりだ。
清風が森を駆け抜けた。
俺は思わず、目を細めた。
嗚呼、素晴らしき。
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