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結局なにも変われていないんだ、俺は。
ただ周りに対する恐怖と疑念を育てて、頑なに自分を隠して、卑怯な手で立ち回っていただけ。
自分にない輝きをもつ陽は妬ましく、理央にゆなえの面影を見て、真澄をゆなえの存在と重ねて傍に置こうとする。
消えるわけなんてない過去と罪悪感に、自ら縛られ続けている。
だけどあの時。
あの星の綺麗な夜に、寄り添ってくれた司の体温。
何も言わず、ただ静かに包み込む司に、ありのままの醜い自分を認めてもらえた気がした。
あたたかくて嬉しくて、だけどそれ以上に悔しくて切なくて。
それと同時に、必死に取り繕っていた自分の仮面が馬鹿みたいにどうでもよく思えた。
行き詰っていた心に、風穴が開いたみたいに感じた。
生き辛くてしかたなかった世界が、すこし色づいた。
心を閉ざし周りを拒絶して背伸びする俺と違って、司はとても内面ともに大人なんだもの。
ほんと、いい男だ。
あの七夕の夜以降、司の顔は見ていない。
散々泣いて会いづらいってわけじゃないよ。一学期も終盤なものだから、風紀委員長としての仕事が忙しいみたいだ。
たまに、電話だとかメールをするようになったけどね。
でも機械越しでも、司は相変わらず静かで食えなくて大人だ。
だけれどその、理央や真澄とはまた違った穏やかさに救われてはいる。
ほんの少しだけれど出来た余裕が、俺を落ち着かせてくれる。俺の心を少しずつ掃除していってくれている気がするんだ。
なんだか、前よりも快適に学園生活を過ごせるようにもなってきた。
長くなってきた日と、肌に絡む熱と光。
ああ、気がつけばもう夏だ。
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