嗚呼、素晴らしき | ナノ
∴少し話をしよう


ゆなえは、声の出ない子供だった。

感情の起伏が穏やかで、彼の性格にはおよそ子供らしい点がなかった。明朗さも気難しさも癇癪もなく、ただいつもひっそりと存在していた。

ごく近所に住んでいた俺たちは、保育所の頃から一緒に遊ぶようになった。
彼が声を発することは決してなかったが、それでも俺たちは難なく意思疎通をしながら共に過ごしていた。

そして幼く愚かな俺は、見当はずれにも驕ってしまったのだ。
自分はゆなえに選ばれた特別な存在であり、言葉なぞ無くとも自分たちは全てを分かり合えるのだと。

この俺の卑しい優越感と傲慢と虚栄心が、悲劇を招いたのだろう。
鈍感になった俺が、あの世界を壊してしまったのだ。



小学2年の初夏、どういう経緯だったか、ずっと二人だった俺たちの世界へ侵入者がやってきた。大したことはない、他の同級生も交えて遊ぶようになっただけだ。

それはなんら異常なことではなかったし、むしろそうするべきことのようにも思えた。
先生はことあるごとに「みんなで仲良く遊ぼうね」と説いていたし、親も「友達はたくさんできた?」と友達の数や交友関係をしきりに気にしていたからだ。
なるほど皆と仲良く友達が大勢いて色んな人に愛されるべきなのか、と当時の俺は馬鹿正直に信じ込んだものだ。
今になって思うと、それはいわゆる王道編入生の性格そのままではないかと笑ってしまう。

俺はさほど愛想は良くない子供だったが、人に嫌われることはなかった。
人よりも計算高く動けたし、勉強も運動も特に欠点はなく、なんだかんだで口も達者だったからだと思う。

他の同級生とも一緒に遊ぶ時、ゆなえはよく輪から外れた。いや、外されたと言うべきだろう。言葉を話せないということは大きすぎる壁で、他の同級生はゆなえを理解する面倒を疎んだからだ。
そんな時は俺も一緒に外れた。俺しか彼を理解できない、彼を独りにしてはいけない、という傲慢ともとれるエゴからだ。

「京くん、抜けないでよ―。」
「おい京、いいじゃん。遊ぼうぜ。」
「早く遊ぼうよ―。」

そんな声にも首を振ると、ようやく彼らはゆなえも含めた遊びを考え出す。そうやって俺たちは一緒に遊んでいた。
静かに微笑みながら遊ぶゆなえ。それを俺は満足げに見つめていた。


嗚呼、なんということだろうか。
彼の狂おしい程の悲しみにも苦痛にも、彼が隠すその傷のひとつにも、愚かな俺は気づいてやれなかった。
彼が壊れていくのを、みすみすと見逃して、ましてや加速させてしまっていたのだ。


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