嗚呼、素晴らしき | ナノ
∴嘘の日



「おはよ―っ!」

「おはよう」

いつも通り元気な陽に、にこやかに返事をする。
あらら、いつもの陽の笑顔だけれど、なんだか違和を感じる。

「あのさっ、俺ね、今日ね、結婚式挙げるんだ!」

「は?」

唐突にはじけるような笑顔で言われた言葉に、思わず思考が止まる。

いや、まさか。

陽はまだ18歳未満だ。
それに当日に式の予定を言うだなんて、どれだけ非常識なんだ。

分かりきった嘘を吐く陽を不可解に思いながらも、口を開こうとすると、黒板に書かれた日付が見えた。


「なるほど、エイプリルフールねぇ」

年に一度、嘘をついても許される日。

「ちっくしょ―!騙されろっての!」

悔しがっている陽には悪いが、あんな稚拙な嘘に引っかかる輩は相当頭が弱いね。

にしても、エイプリルフールねぇ。

そんなことしなくても、既に世界は偽りばかりであるだろうに。
わざわざ嘘をつく日を設けるなんて、気が知れないよ。

なんとも愚かしい。


「あ、だけどな、!」

「千島くん、」

いつも通りに話し始める陽を遮り、クラスメートが話しかけてきた。
首を傾げると、どもりながらの彼は、真澄が訪ねてきたことを告げてくれた。

感謝を口にしてから、1人で扉へ向かうと、確かに真澄がいる。

どうしたのかと問う前に、国語の教科書を貸してくれと頼まれた。

取りに行こうとする俺に、あ、と真澄が小さく声をあげる。

振り返れば、にっこり笑った真澄が口を開いた。


「今日は午後から豪雪らしいね」


嗚呼、ここにも愚かしい嘘がひとつ。


しかしまあ、なんともかわいらしく愛らしいね。



エイプリルフール。

巧妙な嘘は俺、愚鈍な嘘は貴方。





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