嗚呼、素晴らしき | ナノ
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素気なく返事をして口を引き結ぶ。心を鎮めようと瞼を閉じた。
弱音だとか俺の過去のことなんて、言うわけにはいかなかった。特に司には、絶対に言うわけにはいかない。

否定や拒絶をされるのならばいい。だけれどもし、彼がこれ以上俺に対して理解や許容を見せたとしたら。
きっともう取り返しがつかない。俺はもう引き返せなくなる。その温もりが欲しくなって甘えてしまう。

だめだよ、絶対だめ。
繰り返すの、ねぇ、また大切な人を傷つけるの。

瞼の裏の暗闇に浮かぶ。いたいけな瞳の、見覚えがある子供が俺を責める。返す言葉も、言葉を返す資格もない。
ただ俺は、ゆっくりと瞼を開いただけだった。

司はそんな俺など視界に入れずに、ただ平然と食事を続ける。
それすらも彼の優しさに感じて、なんだか許されそうな気がして、胸が痛かった。


「・・・ちょっと席を外してもいいかい?」

静かな、だけれど居心地の悪くない沈黙に、ぽつりと呟く。
何も言わずに目を上げた司に頷いて、かたりと席を立った。

そのままゆらりと歩いて、大窓に向かう。
網戸をあけてベランダに降り立つと、足裏がひんやりとした。

ああ、明日はきっと晴天だろう。
星が綺麗な夜空を仰ぐと、自然と肩の力が抜けた。
そのどこまでも続くような広さと美しさに、胸の奥がぎゅっと苦しくなる。感傷的だ、なんだかとても。

すると不意に背後からの灯りが消えた。
その変化に戸惑いながら振り返ると、部屋の明かりを消したらしい司がやってくるところだった。

なにも言わないでいると、ふっと彼は小さく、常の冷酷さなどなくした柔らかさで微笑む。

「星を見るならばそうと言えばいい。」
人工の灯りなぞ、この星空には不要だろう。

そう呟いて隣に立つ横顔に、再び口を引き結ぶ。
視線を夜空へと戻すと、横でくすりと笑う気配がした。


「卑怯だ、」




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