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そんなこんなで今宵、俺は司と七夕を過ごすことになった。
天下の冷徹風紀委員長様と過ごせるだなんて、なんて貴重な体験だろうかねぇ。
いやはや、別に望んではいなかったけれど、前途多難じゃあないか。
何故か陽は怒ってるし、真澄は不安げだし、大河は不機嫌だし、理央に言ったら泣きそうになっていたし、副会長の拓巳は微妙な表情で、会長に至っては睨みつけてくる。
まあ、真澄が不安なのは自分が拓巳とパートナーだからかもしれないがねぇ。
それにしても本当に、厄介なことになってしまったよ。
腹黒×平凡は確かに美味しいが、それ以上に真澄が危険に晒されはしないだろうか。
それと同じくらいに、司とパートナーの俺も危ないけれども。親衛隊に目を付けられそうだなあ。
はあ、と溜息をつくと同時、手に持ったナイフとフォークがカチャリとぶつかりあった。
「どうかしたか。」
「・・・、いえ。」
対面から感じる威圧感と視線。
目をあわさずに小さく答えると、くつりとさりげなく笑われた。
「珍しく嘘が下手だな。」
「・・・それはどうも。」
どこまでこの人は見透かしているのか。
訝しがり、こんなことではいけないと自分を叱咤しながら、それでも表情を上手く作れなかった。
だってねぇ、疲れてしまったんだもの。
司と向かい合ってのディナーは、広い広い司の部屋へ食堂から運ばれてきたものだ。
高級素材がふんだんに使われ、手間暇かけられたそれは大変おいしいのだけれども、それでも食欲は出ない。
だって本当に、どうしようもなく疲れてしまったんだもの。
陽のこと、これからの制裁やらのことで悩み疲れてしまった。
身体的にも昼間に全力疾走しちゃったしねぇ。
ああ、もう。なんだってこんなに面倒なんだ。
「・・・無理。ねぇ、食べてよ。」
ふぅっと息を吐いてカトラリーを置きつつ、目の前の司に告げる。
静かに俺を見ていた司は、にやりと口角をあげた。
「何を?」
「食事に決まってるでしょ。」
からかいを含んだその深い瞳を見やりつつ、再び溜息をついた。
溜息をつくと幸せが逃げるだなんて言うけれど、別にどうだっていいよ。
だって幸せなんて、どうせ逃げていく儚いものだもの。
「悩みごとか、」
「・・・・・・関係ないよ、司には。」
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