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変わらぬ無表情と淡々とした口調で司が放った言葉。
それに、その場の人物の視線が一気に俺に集まった。
「はあぁぁ!?」
一番声を大きくあげて驚いているのは陽だけれど、他の人も痛いくらいに凝視してくる。
全く、司はさらりとなんてことを言ってくれるんだ。
そしてそれが、嘘というわけではないのだからたちが悪い。
やっぱりこの人は大変よろしい性格をしているようだね。
どう説明すればいいやら、と目を泳がせていると、がしっと両肩を掴まれた。
掴んだのは陽、かなりの力強さだ。
「京っ、なにがあったんだよ!? はぁあ?! せ、説明してくれって!んなの嘘だろ!な?」
そのまま、がくがくと前後に揺さぶられる。
繊細な俺には耐え難いねぇ、止めてほしい。
だけど、声を出すと舌を噛んでしまいそうだよね。
「どけ。」
ぼうっと考えている俺の目の前に、逞しい腕が割ってはいる。
視線を向ければそれは、なにやら真剣な顔をした会長だった。
整った精悍な顔つきに、どこか凶暴な野獣の力強さを感じた。
しみじみ思うけれど、やっぱりこの人は凛と綺麗だ。
顔の造作だって男前だけれど、それよりも纏う雰囲気が王者のものだ。
なかば現実逃避のように静かに会長を見つめていると、その尖った瞳が俺を捉えた。
「説明しろ。」
その言葉に、今まで騒いでいた陽が静まる。
落ち着きなく動くその目が、俺の言葉を求めていた。
ああ、と心の中で嘆息する。
その純粋で綺麗な瞳を見ていると、なんともやるせない気持ちになる。
嫌いじゃないからこそ、辛い。
真っ直ぐで明るい陽は、嫌いじゃない。
そして、その透き通った光を受け入れられない自分も嫌いじゃないんだ。
「鬼に追われていたから助けてもらっただけですよ。」
目を伏せて言えば、会長からあからさまな舌打ちが聞こえた。
何に対してのものかは分からないけれど、それ以上に俺と司のことなんて会長が気にすることでもないだろうに。
ふぅ、と心を休めようとひとつ息を吐く。
どこか震えていたそれは、静かにまわりにとけていった。
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