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「なんのことやら。」
理性で胸を落ち着け、普段どおりの声音で応対する。
同時に、やんわりと司の胸を押し返した。
司は何も言わずに、静かに俺を見つめるだけだ。
俺の微かな、だけれども明確な拒絶に気づいたのかもしれないが、無言で見つめられるというのは居心地が悪いねぇ。
ひっそりと眉をしかめる俺に、司はくすりと笑った。
いつも作り物めいた無表情だからか、たまに見せる表情の威力が大きすぎる。
「行くぞ。」
深いことは聞いてこないし、話してもこない。
それにも関わらず、彼は俺のことを理解し、空気を共有する。
この人はいとも簡単に俺の深いところまで侵入してくる。
無理に手を繋ぐでもなく、ゆったりと歩き出したその背を眺める。
胸がつきりと痛むのを感じた。
危険だ、じわじわと静かに染み込む、まるで麻薬だ。
流されてしまえば、彼がいることが当然のように思ってしまいそう。
遠い日の、あの子の涙が俺を戒める。
緩慢になることこそが、全てを傷つけるのだと、あの子は身を持って教えてくれた。
静かに仮面を被りなおし、俺もまたゆったりと司の後に続いた。
かくして、対して隠れてもいない俺のかくれんぼは幕を下ろしたのだった。
「・・・それにしてもねぇ、」
ゲームが終了し、司と一緒にのんびりしていた俺の元へ集まってきた友人達。
それらのパートナーと見て、俺は思わず苦く笑った。
憤る陽は怪しく笑う会長と、なんだか泣きそうな真澄はしれっとした副会長とパートナーらしい。
腹黒×平凡って萌え、とか思ったり、思わなかったり。
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