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珍しい。
冷静な顔が崩れ、虚をつかれたようにまばたきをしている。
しかしそんなギャップに萌えるのは後回しだ。
今は、これから先の自分の安全確保が最優先事項だもの。
「追われてるんだ、助けておくれよ。」
返事の前にたたみかけると、司は一度、ゆっくりとまばたきをした。
そして音もなくふっと頬を緩める。
あまりにも威力の強い色気にあてられて、思わず息を飲んだ。
知らず知らず、司のシャツを握っていた手に力がこもる。
そんな俺を気にも止めず、司はスムーズな動作で俺の腕に手を伸ばす。
その手が静かに腕輪をひとつ外してゆくのを、俺は音も立てずに見つめていた。
「…こいつのパートナーは俺だ。散れ。」
俺の後ろに放ったとおぼしき低い声に、そっと振り返ってみた。
顔を赤らめたり、悔しげにしていたり、青ざめていたり、茫然としていたり。
とにかく、かの風紀委員長に逆らおうとする人はおらず、みな慌てながらも散って行った。
どうしよう、嫉妬とかされちゃったかもな。
制裁対象なんかにならなきゃいいけど。
未来に一抹の不安を覚えるも、それ以上に現在の危機が去ったことに安堵した。
ふぅ、と息を吐く。
礼を言わなければと顔を上げようとすると同時に、己のものでない漆黒の髪が頬をなでた。
そうやって俺の耳に唇を寄せた司がそっと呟く。
「何を誘ってきたのかと思った。」
大胆な奴だな、という艶やかな笑みを含んだ言葉。
それと、耳朶をうつ甘やかでくすぐったい吐息。
不覚にも、どきりと胸の奥が疼いた。
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