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強い衝撃に、反射的に目をつむって体を強ばらせた。
しかし、第二の衝撃はこない。
つまり、俺はどうやらぶつかった相手に支えられて尻餅をつかずに済んだわけだ。
それに安堵すると同時に、さっと脳内を駆け巡った悪い仮説。
もし、この人が鬼だったら。
いや、この人が鬼でなくとも、後ろの鬼共からは逃げられないのでは。
そこまで考えが巡りひやりとした、数秒たらず。
それはすぐに、耳元で響いた声にかき消された。
「京、」
低く感情の乏しい声音は、明らかに聞き覚えのあるものだった。
脳裏にある人の姿を思い浮かべつつ、そっと顔を上げる。
「……司。」
予想通り、淡々とした無表情の司が俺を見ていた。
なんとも幸福なことに、知り合いじゃあないか。
後ろから騒がしい足音を聞き、俺はとっさに司のシャツを掴んだ。
「もしかして、司は鬼かい?」
「ああ。」
彼は間をおかずに静かに頷く。
望み通りの答えに、内心で大きくガッツポーズをした。
「じゃあ、俺を捕まえて。」
すがるような俺の言葉に、司が目をみはった。
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