嗚呼、素晴らしき | ナノ
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その抉る言葉がただ痛くて、何も言えずにその場を後にしてしまったのだと言う。

“悩んで迷って心細かった。また、逃げちゃったのかな。”
小さすぎる呟きが、どうしようもなくせつない。

だけどね、とぽつぽつと理央が叫びをつむぐ。

「・・だめ、一緒にいたい、よ。」

理央は嘘なんかつかないだろうし、この様子だ。
本当だと思わざるを得ない。

「うん、一緒にいておくれよ。離れたりしないで。」

ひとりにしないで、と掠れる声で答える。
まぶたの裏に浮かぶあの日のことを、無理やりに飲み込む。

きっと花園であったことは、事実なのだろう。

だけれど、腑に落ちない。
聞いた途端に、言いようもない違和感があったんだ。

はたして陽が、そんなことを言うのだろうか。


王道編入生は、全ての人々を等しい優しさで包み、明るく光で照らす。
多少強引でも裏表もなく、真っ直ぐでぶれることも無い、誰からも好かれるような、そんな人間のはずだ。

周りからは一番の愛をもらう代わりに、自分はみんなに同じだけの惜しみない愛をあげる。
言うならば、みんなのもの。
個人のものにはならない、快活で眩しい人。

その人物が、そんなことを言うのだろうか。
俺を特別視して、理央を攻撃するようなことを。

「・・・世界は、分からないねぇ。」

勝手に分かったような気になってはだめだ。

そして勝手に自分の過去と重ね合わせて、心の中には陽に対する黒い感情が沸き起こっている。
それは、激しい憎悪と拒絶と恐怖。

だけれどそれと同時に、その事実を信じきれてもいないんだ。
疑念と不安の中の、小さな希望と信頼に似たもの。


嗚呼、
世界も運命も心も、俺には何一つとして分からないよ。




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