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重苦しい沈黙の中、ふっと息を吐いた。
そうでもしないと、溜まるしか無い感情が爆発してしまいそうだ。
理央といる時の、いつもの心地よい静けさはどこへやら。
俺の、わずかな安息の場にまで、どうして土足で入ってくるの。
どうして、そっとしていてくれないの。
どうして、他人だと線引きしてくれないの。
ねぇ、陽?
話すことが苦手な理央は、一生懸命にたどたどしく説明してくれた。
話しながら思い返すたびに、その淡い茶色の瞳が揺れる。
それに胸が痛むのを確かに感じながら、ただゆったりと頷いた。
「・・・ご、めん。嫌いに、ならないで。」
ふるふると首を振りながら、震える声で謝罪を繰り返す理央。
疲れの見えるその顔は、いまにも消えてしまいそうで、いやになる。
いつかの光景と、泣きたいくらいに重なる。
いやだ、ああいやだ。消えて欲しくなんて、ないんだよ。
「嫌いになんて、なるわけないでしょう。」
安心させるように微笑む。
俺のための涙なんていらないの、俺のための笑顔がいいの。
「大丈夫、きっと、大丈夫だよ。」
笑って欲しくて繰り返す言葉は、間違いなく俺のためでもある。
大丈夫だと言い聞かせなければ、耳障りなほど大きな音で騒ぎ立てる心臓が、どんどん加速していくもの。
理央の花園、俺と理央の密会の場所、憩いの場。
その不可侵領域に、陽が入ってきた。
迷い込むのは王道編入生の宿命でもあろうし、仕方ないとしよう。
関係を持つことを拒否する理央に強要し、いつもの如く、陽曰くの“友達”になったらしい。
問題は、その後だ。
理央が横においていた本が、俺が先日読んでいたものと一緒だと気づいた陽。
そこから話が発展し、俺と理央が隠れた友人であると気づいたらしい。
いつもの陽ならば、友達の輪が広がった、と喜びそうなものなのに。
なぜか憤怒した彼は声を荒げて、思いっきり理央を否定したのだという。
借り物を地面に置くなんて。他人を疎むなんて間違ってる。ひとりに逃げるな。拒絶して楽しいのか。いつまで逃げるんだ。どうして自分の意思をはっきりと言わないのか。京は俺の親友だ。京に甘えるな、迷惑をかけるな。
“きっと京にも重荷だ。京が、可哀想。”
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