嗚呼、素晴らしき | ナノ
∴焦燥に拒絶反応


寮の最上階、生徒会や風紀の役員だけが住んでいる階。
ここも、特別なカードがなければ入ることは出来ない。

うっかり他の人と遭遇しないように警戒しながらも、弾みそうになる足取り。
頬が勝手に緩むのは、彼といる時の気楽さをもう知ってしまったからだ。

どこまでも自然で、安堵がじわりと広がる、心地よくてたまらない空間。
肩の力が抜けて、繕わなくてもいい居場所、不思議な時間。

知ってしまったらもう、依存して戻れない。
まるで麻薬みたいじゃないか。危ういねぇ。


インターホンを押す。

わくわくとしながら、アポなしの訪問に驚くだろう姿を楽しみに待つ。

穏やかな表情ばかりをゆるやかに浮かべる彼だけれど、少しは大きな反応をくれるだろうか。


かちゃり、とドアノブの回される音。

やあ理央、と言おうとした俺の口は、不自然に固まった。


「・・・きょ、う」


開いた扉の先、こちらを見つめる理央、小さく震えているその手、今にも消えそうなか細い声。

今にも泣き出しそうに歪んだ顔に、背中に震えが走った。


嫌な予感、脳内の警鐘、どこかで見たような光景、激しく震えだす心臓。


ああ、吐きそう。
ああ、やめて、やめて、やめて。

もう、たくさんだ。


「京、どうしよ、俺・・・。」

それでも京と一緒にいたいの、と告げられた言葉に、ひゅっと喉がひきつった。


俺の世界は狭い。
俺が勝手に選別した大切な人と居心地のいい場所だけが、俺の世界のすべて。

この世はなんとも無常で無情で、形あるものも形ないものも、いつかは壊れてゆくんだ。
変わりたくなんかないのに。いつまでも包まれていたいのに。

足掻く俺の、なんと無様なことか。


「詳しく、話しておくれよ。」


既に動いていた歯車を、ずらすことは出来るだろうか。
いや、出来なくてはならないんだ。


出来ないのなら、壊すか壊れるかだもの。



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