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心底吐き捨てたようなそれに、心が疼いた。
喜びでも悲しみでもないけれど、なにかが動いた。
「可愛さあまって、とやらですか?」
「嘘つき。」
試しに軽く尋ねれば、冷たい目できっぱりと切り捨てられた。
可愛いいたずら心を、少しは理解してもらいたいものだよねぇ。
分かってるくせに嘘つき、敬語も気持ち悪いから止めて、真面目に話してよね。
仮面を外した途端に、ずげずげと言葉を重ねていく。
こちらの真っ黒な人格ほうが、楽しいしさっぱりしているから俺は好きだけれどね。
「綺麗すぎて嫌気がさした?」
首を傾げながらそう言えば、相手方の眉間の皺が深くなる。
「踏み込みすぎての、拒絶反応かもね。」
伏せた瞼でできた陰影と、吐き出した小さな震える息とが共鳴している。
なるほど、とひとり頷いた。
なるほど、拒絶反応という見方もありだねぇ。
副会長にかかっていた麻酔が解けただけと思っていたけれど。
ほら、今までがただの憧れや興味からくる、恋愛感情に似た錯覚から来るものであったからね。
だけれど、彼は拒絶反応と言った。
光と闇とが相容れはしないのだと、彼は言外に言っているのだろう。
近づけば近づくほど、愛を示せば示すほど、彼が存在するごとに、彼が反応するごとに。
相手の全てが、忌まわしく憎くなる。
なんともまあ、可笑しい滑稽劇だ。
陽は綺麗だ。
穢れなどないように、真っ直ぐで、明るくて。
あんなに綺麗なんだもの、それは惹かれる。
でも綺麗すぎるんだもの、対する自分の醜さに嫌気がさすよね。
そして、もうひとつ。
なるほど、そうか、共鳴か。
彼の影と吐息の共鳴に、すとんと心が落ち着いた。
吐き捨てた彼の言葉に心が疼いたのは、あれはきっと、共鳴であったのだろうよ。
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