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こちらを気まずそうにうかがってくる陽の頭を優しくなでる。
見た目通り、ごわごわとしていて手触りの悪いカツラだ。
あまり撫でたいものではないよねぇ。
それでも、優しい微笑みは崩さない。
「それもいいね。」
途端に明るくなる表情と、「だよなっ」と相づちを打つ上ずった声。
俺はあくまで1つの案として認めはしたが、了承や約束なんてさらさらしていないけどね。
口には出さないよ。
教えてあげる義理もないし、そんなこと言って理由を問われるのは面倒だもの。
司は、クラスや人気は関係なく、ランダムで隠れる側と鬼に分かれると言っていた。
つまりは、細工しやすいってことだ。
俺と陽は分かれなければいい。
最善の対処策だろうよ。
「じゃあ、また後で迎えに行く!」
満面の輝かしい笑みで手を振る陽。
顔がよく見えなくとも、口元や雰囲気からあふれる活気。
微笑ましく、まぶしい。
同じように手を振って部屋に入る。
ぱたん、と閉まった扉を背に、真っ先に思ったこと。
「…手を洗わなきゃ。」
酷くもなんともない、衛生的に当然のことさ。
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