嗚呼、素晴らしき | ナノ
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よく、分かっていらっしゃるじゃないか。
驚きで心臓が止まるかと思った、というのは誇張だが、心臓あたりに痛みを感じたのは確かだ。

「それじゃあねぇ、」

少しだけ仮面を外して、悪戯を企むような顔で首を傾げ問う。
ぴくりとも表情を変えない鬼城と、張り詰めた異様で静かな雰囲気。


「君の存在は俺に、どんな利をくれるんだい?」


俺は、素直でもなければ、純粋でも明るくも強くもないから。
自分を守るために慎重に、生きやすいように狡猾に、存在するために排他的に。

もし俺が、君に心を許したとして、それならば君は見返りに何をくれる?


「・・・等価交換だ。」

にやり、と口元を歪めた見慣れぬ姿に、肩の力が抜けた。
部屋の空気が弛緩したのを感じる。


一応合格、かな。
この人はきっと、俺を傷つけることはしない。

俺と、驚くほど本質が同じだから。
俺があげただけの利を返し、また逆に与えた以上は返さず。
こちらが裏切らない限りは、相手も裏裏切らない。

だから、少しだけ近づいてあげよう。
その後、どこまで俺の中に侵入してくるかは相手次第だ。


「千島京、京で良いよ。」

すっと差し出した手は、軽く振って離される。
当たり障りもない握手だったけれど、その手は驚くほど冷たかった。

「鬼城司、司でいい。」

こくりと頷くと、無表情のまま頭を撫でられた。
子供扱いではないけれど、同士や仲間にする仕草でもないだろう。特に、この男が。

不振に思い見上げれば、無言で首を横に振られた。




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