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返事も出来ないまま、ただ静かに陽の横顔を見つめる。
どこか痛むように、切ない表情をした陽は、ぽつりと言った。
「あの風紀委員長さ、すごく、悲しい目をしてるな。」
「悲しい、目…?」
反芻するように繰り返した俺をちらと見やって、陽は縦に頷いた。
「人を拒絶して、諦めてる、孤独な悲しい目。」
かわいそうに、と音もなく続けて呟く。
人を拒絶して、諦めてる、孤独な悲しい目。
すぐに相手の心や闇をとらえる陽は、まるで救いの手を差し伸べる天使のようだ。
こちらの全てを見通す、不思議な人。
そしてそれを変えようとするんだ。
損益計算なんてせず、ただ良心のままに。
良いことだって、分かるんだけどな。
道徳的には正しいんだろうって、頭では分かるんだけどな。
だけど、心が理解してくれないの。
ねぇ、どうしてなの。
他者は自己への侵入者、異端者だ。
許して受け入れてしまえば、その存在は欠かせなくなる。
どう足掻いても他人は他人だから、ずっと一緒には居られない。
別れの痛みは、あの狂おしい嘆きは、身を持って知った。
それでも、安易に他者を受け入れるべきなのかな。
自分の全てなんて、誰ひとりとして分かってくれはしないだろう。
そして相手のすべてを理解することだってできない。
だって自分は自分、他人と全てを共有なんて不可能だ。
それで良いよ、しかたない。
俺の全てを分かって欲しいだなんて、相手を苦しめてしまうだけだ。
相手の全てを分かってあげたいだなんて、そんな大それたこと考えられない。
それでも、傲慢に他者に求めることを諦めないべきかなのかな。
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