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「な、あの人って・・・!」
陽は目を見開いて、理央をじっと見つめている。
真澄も驚いているが、こちらは静かに驚き、そしてどこか納得しているようだった。
「お、おいっ!京は知ってたのか!?」
にこりともしないステージ上の理央を見やりつつ、陽の詰問に肩をすくめる。
「まあねぇ。」
真澄と俺が迷子になって出会った人。
また会いに行こうとした際に、真澄だけでなく陽も付いてきたため知り合いなのだ。
確か、今まで理央に会ったのは、真澄が3回、陽は2回。
そのどちらとも、理央の顔は長い前髪で隠れていたのに、良く分かるよねぇ。
ちなみに、俺は最初の遭遇以来、けっこうな頻度で花園まで訪ねていっている。
だから呼び捨ても許可されてるし、顔も知ってるし、補佐だとも知っていた。
ちょっとした抜け駆けだねぇ。
だけど、理央のそばは落ち着くし、甘えさせてくれる優しい雰囲気なんだよねぇ。
無駄に干渉してこないし、何よりあの笑顔が見たい。
痛いほどに切なく懐かしい、重なる愛しい笑顔。
良く言えば、お互いに尊重しあう大切な仲間である。
悪く言えば、居心地が良いから利用させてもらってる。
だけど、だけどね。
歪んで自己中心的な俺の、勝手な思い込みだけれど。
きっと理央なら、俺の黒い本心を言っても受け入れてくれる気がするんだ。
俺以外がいると笑わない彼に、自分が特別な気がするんだ。
優越感と独占欲。だけど束縛はされたくない。
「・・・まじかよ―・・。早く言えよなあ。」
口を尖らす陽と、何も言わずにその後ろで苦笑する真澄、こちらを一瞥しただけの大河。
曖昧に笑って、ごまかしておく。
言わないでおこう、隠しておこう、俺の歪んで黒い心なんて。
だって、陽に、光にさらしてしまうことはきっと、苦痛でしかないもの。
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