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1人で行けると言おうと口を開けば、会長の言葉に遮られた。
「俺が捕まえたんだからな。」
にやりと笑うその姿に、しくじった、とまたひどく後悔した。
そういえば、開始前になんか言われた気もする。
ああ、やっぱり走りすぎたんだ。
気が、走りすぎたんだねぇ。
面白そうで萌えが見れそうだと、ちょっと心が焦ってしまったんだ。
王道編入生を甘く見てたし、俺は精神的にもまだまだみたい。
はぁ、と小さく小さく息を漏らせば、会長はまた目をきらめかせて笑った。
全てを楽しんでいるようなその態度が、なぜか妙に癇に障る。
そのまま歩き出す会長に連れられて、俺は歩き出す。
陽が付いてこようとしたけれど、それはさすがに止めておいた。
本当にちょっと気分が悪い今、あまり騒がしいのは好ましくない。
「・・・で。」
グラウンドの端にある救護まで、けっこうな道のりがある。
てくてくと歩きつつ、俺は前の背中に小さくたずねた。
「俺を捕まえて、なにか得はありましたか?」
さりげなく歩調を緩めている会長は、その問いにちらりとこちらを一瞥する。
返事はなかったものの、また瞳が笑っていて、なにがおもしろいんだかと溜息が出た。
「まさかこんな形で捕まえるとは思ってなかったがな。」
少しの沈黙の後、ぽつりと会長が漏らす。
手を引かれて後ろを歩いているため、その表情は見えない。
「・・・ええ、まさか弱っている相手を捕まえて満足するとは。」
陽もいない今、返答だっておざなりになる。
心のままに素直にそう嫌味を言えば、なぜか俺の手を握る力が強くなった。
「満足はしてねぇな。」
小さいが、はっきりとした声が響く。
会長は歩くペースはそのままに、満足はしてねぇ、と繰り返した。
「俺の足で、逃げるお前を捕まえたかった。」
「・・・鬼ごっこが、お好きなようで。」
言う言葉が分からず、ぽつりと返せば、くつくつと笑い声が広がる。
まだ競技中とは思えない静けさ。
「逃げる奴とか、なびかない奴とか、食えねぇ奴がさ、好きなんだよな。」
それなら王道編入生でいいじゃないか、と憮然と思う。
そんな俺に、顔だけ後ろを向いて、会長は付け加えた。
「あとは、腹黒とか性格歪んだ奴。」
それをねじ伏せたり、落とすのがたまんねぇ。
口角を妖艶にあげた会長は、確かにれっきとしたサディストだろう。
そして、なんとめんどくさい奴なんだろうか。
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