短編 | ナノ
(やんぬるかな)
兎にも角にも、まずかった。
失敗だらけの俺の人生でも最大の失敗だ。
「なんでこんなとこにいるんだよ、俺」
俺は真面目な優等生じゃないが、不良じゃない。
フラ語やら英語の単位は落としたが、ちゃんと大学には行ってる。
堅苦しいことは大嫌いだけど、遊ぶことは大好きだ。
…俗にチャラ男と言うかもしれない。
ワックスとかケープ使うし、ってオシャレ好きなだけか、これは。
まぁ、それなりに考えて行動してるし、それなりに悩んだりもする。
「…頭いてぇ…」
そして現在理解不能
誰か助けて、現実に連れ戻して。
「たぁくん、リハ行くよぉ。」
あぁ、ダメだった。
よりによって一番ダメな奴に声かけられた。
そろそろオーバーヒートしそう。
母さん、ごめん。
あなたの言うこと聞いて、真面目になるべきだった。
ステージに向かいながら、ため息。
あぁ、なんでこんなことに。
痛む頭で明るいステージに踏み出す。
「…自分が一番分かってるんだけどね」
兎にも角にもまずい。
もうアンプやらなんやらの準備を終えた赤い髪の男。
俺はただ、こいつを見るだけで幸せになる。
分かってますよ。
近くに行きたかったんです。
けど、こんなこと予想できるかよボケ。
やべぇ、ちゃんと歌えるかな。
あいつが斜め後ろにいるってだけで、心臓が異常に活発化。
兎にも角にもまずいっしょ、これは。
ふれた先のマイクは、意外と暖かくと俺を迎えた。
あぁそうですよ、もう末期。
視界の端に移った赤に、心の中で両手を上げた。
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