短編 | ナノ
(×副会長)
分かってたんだ。
十分すぎて、嫌になるくらいに、分かってた。
「…ほんと、俺って馬鹿だよね―」
はあ、と口から漏れた息は重くて。
軽口みたいに言いたかった言葉は、みっともなく震えてた。
結局は、みんな他人。
だれも信じれなくて、ひどく冷たい世界が嫌いで、殻に閉じこもるように仮面を付けた。
どんな時も、休まる時なんてなくて、窒素しそうだった。
仮面をつけすぎて、自分が分からなくなってた。
そんな時に、出会った彼。
見かけとは裏腹、底抜けに明るくて笑顔が眩しくて。
そして、出会ってすぐに、俺の仮面に気づいてくれた。
嬉しくて嬉しくて、光に救われて、心が安心した。
光に目が眩んだように、見抜いた一言で催眠術にかかったように、あっさりと恋におちた。
分かってたんだ。
叶うはずないって。
好きで、近くから見ていたんだから分かる。
彼は、徐々に会長を好きになっていった。
そして本日、見事に俺の恋は砕けた。
彼は見事、会長の恋人になった。
ああ、痛い。
胸が苦しくて、息がしづらい。痛くて痛くて、泣きそうだ。
だって、好きだった。
ちゃんと恋をしていた。好きだったんだ。
彼が幸せなら嬉しいとか、祝福しようとか、そんな気持ちにもなれない。
ただ、悲しくて苦しくて切ない。
性格悪いなあ、俺。
未だに、会長みたいだったら、だなんて羨望や嫉妬、後悔。
はあ、とついた溜め息とともに、ついにぽろりと零れ落ちた。
「なあなあ、なんで泣いてんの?」
顔をあげる前に、しくじった、と強く後悔した。
注意が疎かで、生徒会室に他人が来たのに気づかなかった。
ああもう、ほんと、俺って馬鹿だよね―。
そしてほんと、幸薄ってか不幸な馬鹿。
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