短編 | ナノ
(異世界)
世界には、あふれている。
人が、魔物が、自然が、ものが、宝が、魔力が、あふれている。
俺はそれを、歌うんだ。
だって俺は歌人で、歌は俺の存在証明であり武器なんだから。
「えぇ―、ふざけないでよぅ」
思わず食事の手が止まった。
呆気にとられつつも、一応の抵抗をしてみる。
「ふざけてねぇ! 俺はあの火山の中心にいる悪魔を倒すんだ!」
うっわあ、まじすか。
明らかに無理、絶対に死ぬって。
あの火山って、年がら年中ぐつぐついってるダグラス火山だよな。
他のちっさな別の火山じゃないよな。
「はい、無理―! あそこにいる魔族は四天王の1人なんだからね!?」
「てめぇ、逃げる気か!」
いや、逃げないけどさぁ。
出来る限り拒否したいです。
だって死にたくないしぃ。
はあっとため息をつくと、俺の雇い主でもあるパーティーリーダーをじと目で見る。
茶髪でいかにもな熱血剣士、正義感あふれるいい奴だけどぁ。
「勝率はあるの?」
「未知数だ!」
首を傾げた俺に、胸をはって答えてくる。
うっわ、だめだこりゃ。
救いようのないバカ加減に呆れて、助けを求めるべく魔術師を見る。きっとクールなあいつなら止めるだろ。
しかしながら、既に食事を終えて本を読んでいたそいつは、あっさりと言い放った。
「勝手にしろ」
…あ―、そうでした。
こいつ、クールというよりただの無関心仏頂面野郎でした。
「まあまあ、試しに行ってみようよ」
ね?、と微笑みながら首を傾げてくる、回復担当の僧侶。
行ってみよう、なんて気軽な気持ちで行っちゃだめでしょ。
命散らしてお終いじゃん。
ははは、と乾いた笑いが漏れる。
だめじゃん、このパーティー、強くないばかりか頭も弱いじゃん。
それでも逃げれないんだけど、なんかすっごく逃げたかった。
死にたくないよぅ。
---------
70%の確率で続き書きます。
- 21 -
[*前] | [次#]