(夢を)
ずいぶんと長い間、夢を見ていたみたいだ。
幸せで、ほわほわと包んでくれて、あたたかかった。
現実だなんて分からないほどに、浮き世離れした、麻痺させる夢。
それで良かったのに。
そのままずっと、夢を見ていたかったのに。
頬を伝ったのは、冷たいしずく。
てっきり自分が泣いているのだと思ったのに、それは空の涙だった。
泣きたいのに、やっぱりこれでさえも夢のようで現実味がない。
また明日になれば、君が笑いかけてくれる気がする。
君は、ずっと僕に愛をささやいてくれた。
その全てが嘘だったなんて、やっぱり信じられない。
「…もう要らない」
彼の最後の言葉。
やっぱり、現実味なんてない。
彼はいつも通りの笑顔だった。
明日、明日になれば。
明日、目が覚めたら。
きっと、全てが夢であったと願っている。
冷たく俺を濡らす雨。
それに紛れて一つ、生ぬるいしずくが零れた。
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