short | ナノ
雷と君
今日、俺は柳の家に遊びに来とる。


本当は映画でも見に行こうかと言うとったんじゃが


「…お天気のバカヤロウ。」

そう、空は見事な曇り空。
きっと直に雨も降ってくる事じゃろう。



じゃが、俺の家に柳を呼べば、姉貴達にからかわれるのは目に見えちょる。

じゃけぇ、親御さんが留守の柳の家にお邪魔したっちゅう訳じゃ。


「仁王…。天気に馬鹿と言っても、意味が無いだろう。」


そう言って呆れたように笑ったんは、柳蓮二。

さっきから俺なんてそっちのけでデータの整理をしちょるこの男は、一応俺の彼女(彼氏?)だったりする。
…データの整理ばっかしちょるけど。




「いいや、何も言っとら…ん?あー、やっぱ降ってきよったのぅ。」


ふと窓の外を見ると、空から大粒の雫が落ちてきた。

「雨か…。」


俺が恨みがましい視線を空に送っとると、一瞬空が光った。


「……あ、光った。」


そして数秒間の静けさの後、空が大きく唸る。


「…っ!」


ビクッと、柳の肩が揺れた。

「参謀…?」


また空が光って、唸った。
ぎゅ、と柳が俺の服を握った。


「…参謀。」


「…な、んだ。」


「おまん、まさか……雷、苦手なんか?」


「……。」


俺の服を握る柳の手に力が入る。


「柳、どうしたん…?」


「…雷は、」


柳が今にも消えてしまいそうな声で、呟くように言った。


「…雷は、…何か、とても大切なものが、壊れる音がするんだ。」


空が、光った。

俺と柳の影が部屋に映し出される。


「…壊れていくんだ。」


一度、


「何かはわからないけど、」

また一度、


「ほらまた、」


空は唸る。


「……大切な何かが壊れていく。」


その度に柳は、凄く苦しそうな顔をする。


あぁ、この男はまた、俺には到底分かりそうもない小難しい事を考えとるんじゃろうか。


そがん心配せんでも、俺が守ってやるんに。


やから…



「そんなに怯えんでええんじゃよ、柳。」


多分、柳は自分がなんで怯えているのかさえ分かってないんじゃろう。









皆が当たり前のように知っとる事じゃが、柳は賢い。
それはもう、俺なんてお呼びじゃないほどに。

やけん、その分だけ柳は俺よりずっと馬鹿じゃ。



今までの15年間で柳が蓄えた知識は、一方で柳を邪魔し続けて来よった。

賢いが為に、柳は無遠慮に鳴る音に崩壊を見ちょる。

「何をそがん怖がっとるんかは知らんが、俺はずっと、おまんの傍に居るき。」


「仁王…。」


「俺はおまんから離れたりせんよ。」


柳は黙って俯いたまま、言った。


「…でも、いくら俺達が離れたくないと願っても、いつかは離れないといけない時がくる。きっと社会は、俺達を受け入れてはくれない。」


「偏見に塗れた社会なんざ関係ないぜよ。
…誰にも、何も言わせん。俺はおまんが好きじゃ。
おまんは俺が好き。…それでええんじゃよ。」


お前が嫌にならない限り、俺は離れないっちゅうんに。


すると柳は、伏せていた顔を少しあげて、


「……やっぱり馬鹿だ…、俺も、お前も…。」


ふわっと微笑んで、そう言った。




柳が、壊れる事を恐れちょるんは、俺達の関係で。


でも、本当に壊れそうなのは、柳自身かもしれん。





俺は柳の身体を、壊れないように、大事に抱きしめた。







君は、誰より聡くて
君は、誰より器用で
そして君は、誰より馬鹿だ。





雷と君



(だからせめて、雷が止むまではこのままで。)
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